は21歳、ガイの後輩中忍

サラサラのショートヘアでグレーの大きな瞳
すらっとした体形にさっぱりとした性格の彼女は、忍の間でも5本の指に入るほど人気があった。
忍としても幻術と体術を得意として時期上忍と言われている。
里に居る時はいつもを口説き落とそうとする取り巻きができているほどだ。






その取り巻きをいつも散してくれるのがガイだった。
恋愛感情ではなく「かわいい後輩」の一人であるに任務後にはいつも声を掛けてあげていたのだ。
にとって取り巻きは邪魔でしかなかったので、ありがたくガイが来てくれたタイミングで
取り巻きを一掃でき、ちょっとした感謝もしていた。

この時点でお互いに恋愛感情は無い。



ガイは見かけた後輩には誰とは問わずに親しげに声を掛けていたから
もその一人でしかなかった。
取り巻きに囲まれていて少し声を掛けるのが大変だが、そんなことはガイには関係なかった。
後輩を労う言葉を書けるのはガイの楽しみでもあったのだ。
そんな雰囲気を感じてか、彼の異質な外見からか
ガイがを独占して去って行っても誰も恋仲であるのかも、とは考えもしない、そんな関係だった。



に恋人も好きな人も居はしなかったが、正直なところガイは気になっていた。
いつもちょうどいいタイミングで助けてもらったり、下忍時代から忍術を教えてくれたのは
ガイだった。
その当時は自分自身になんて正直で、変わった人なんだろうと当たり前な感想しか持って居なかっただったが
ガイの底知れぬ精神力の強さや、仲間達への深い優しさを知るにつれて人間として好きになった。




今日も任務が終わり、の周りにはそれを待っていたとりまきの男たちが集まる。


帰宅道、茶通りを抜けてそろそろ今日もガイが声を掛けてくれる、
そう期待していただが、今日は何故かガイは一向に声を掛けてこなかった。

(長期の任務でも入ったのかな?)

がふとそんなことを思って居た時、橋の上で川の水面を見つめるガイを見つけた。

ぼんやりと水面を見つめたまま、溜息をつくように肩を落としているのが見える。
明らかにどこか様子がおかしかった。



気になってしまう

「先輩!!ガイ先輩!!」

が声を掛けても全く気がつかない。
取り巻きと通行人にの声はもみ消されてしまった。

(先輩………どうしたんだろう?)




は取り巻きの人たちにごめんね、と抜け出すとガイの居る橋へと移動した。

「先輩!」

ガイの斜め後ろから肩をポンと叩きながらもう一度声を掛ける。

そうするとようやくガイも気がついたようでに振り向く。

「よぉ………か!…ぁ、そうか任務明けか?ごくろうさまだな!!」



に向けての労いの言葉もどこか歯切れが悪い。
落ち込んでいるところを後輩に見られて、気恥ずかしかったところもあったのだ。

「はい、任務修了です!」

「うむ、怪我も無かったようで良かった…な。」


その口から話す言葉は同じようだったが、ガイのいつもの元気が全く無い。
視線はぼんやりしていて、目の前に居るを捕らえていないようだった。



こんなにも落ち込んでいる様子のガイを見るのはにとっては初めてだった
後輩達をいつも元気に励まし続けていたあの強いガイが、上の空になるほど落ち込むとは
これまでには経験したことが無かったのだ。

「先輩!今日は飲みに行きませんか?」



いつも自分を励まし全力で力になってくれるガイに恩返しをする時だ、はそう思っていた。
話を聞くだけでも心が楽になったりするものだから。



その日の夜。はガイを連れて居酒屋へ行った。
落ち込んでいたガイは酒を浴びるように呑んだ。
限界になっていた心が、どうにか楽になりたい一心で。
どんなに呑んでもなかなかガイはに落ちこんでいた理由を語りたがらなかった。




も無理には聞こうとしなかったが、こんなにも苦しむのならどうにか吐き出して欲しかった。




「ガイ先輩、もう帰りましょうか?かなり酔っているみたいだし。」

「ハッハッハ!そうかぁ!?そうでもないぞ!!」

べろんべろんになるまで酔っていたガイは店を出るとハデによろけて顔面から転んだ。

「どぁぁ!!ぐはっ………。」

「先輩!?大丈夫ですか?」



一人で帰るのは無理と判断したはガイに肩を貸して家まで送ることにした。
大柄なガイを連れて帰るのはなかなか骨の折れる作業だったが、初めて自分を頼っているガイに
は嬉しさを感じていた。


綺麗な星空が見える深夜の帰り道。
こんなに近い距離でガイと歩いたのも初めてだった。



「先輩……、何があったんです?」

「………俺の部下が…大怪我を負ってしまった。俺が教えた技を使ってな……。
綱手様に見せればすぐに治ると思っていたのに………………。」

ガイは急に泣き出してしまった。
肩を震わせて、泣き声を上げないように堪えている。




「その子、治らないんですか?」

「手術をしても………治る確率は半々。治らなければ……もう忍は続けられんのだ……
あいつを立派な忍に育てることが俺の……夢だった。」


涙でぐしぐしになりながら、ガイは心の内をに告白した。

「治る確率がゼロじゃないなら………信じましょう、ガイ先輩。」



は泣きじゃくるガイを強く抱きしめた。
落ち込んでいた時、自分を慰めてくれたガイと同じように。



「うっうっうっ………。」




激しく泣いているガイとを、すれ違う人がチラチラと見ていた。

「先輩、とにかく帰って寝ましょう。この様子だと何日も寝てないんでしょう?」

「………うぅ………ま、まぁな。」



がガイの住んでいる家まで連れて帰ると、赤い目を擦りながら茶でも飲んで行け、と中へ勧められる。
もう少し話し相手が欲しいのだろう。
も頷いて家へ入る。




ガイは足元も確かでなかったため、お茶はが煎れた。
居間のちゃぶ台の前に二人で肩を並べて座ると、とても静かな空間に感じられた。




、お前、お茶煎れるのうまいじゃないか。」

「ありがとうございます。」



ガイはいつも感動したことはすぐに褒めてくれる。
彼のおかげでもっと頑張ろう、と勇気付けられたことも多い。
は照れて顔を赤らめながらお茶を飲む。



ガイの家に入ったのは思えば初めてだ。
思わず、は部屋の中を見回す。



「案外、綺麗にしてるんですね。」

「そうでもないぞ、趣味の部屋になれば汚いもんだ。」

「趣味の部屋!?」

「企業秘密だ。」




ガイは酔った赤い顔のまま、興味津々なにニヤっと笑って見せる。
そうとう酔っていた筈なのに、話す内容は案外まともだった。


(もう大丈夫ね。)


そう思ったは、それじゃそろそろ…と立ち上がった。

ところが、立ち上がろうとしたの腕をガイはしっかりと掴んで放さなかった。

「ガイ先輩…?どこか気持ち悪いんですか?」

「……………行かないでくれ。」

「え?」





はガイの言葉に一瞬耳を疑って聞き返すも
ガイはの腕を強引に引き寄せてその場に押し倒し、覆いかぶさる。


「ちょ、ちょっと、先輩!!」




の言葉はガイのキスで塞がれる。
両腕は片手で押さえつけられ全く身動きが取れなくなってしまった。


「なぐさめてくれないか。」












はガイの行動が信じられなかったが、酔ったガイの力は痛いほどで抵抗も空しかった。


了承を得ようとすることも無く、ガイはの服を剥ぎ取り無理やりに足を開かせた。


「やっ!!!いやーー!!!!ガイせんぱっ………こんなの…いや…!」


………。」


口元が少し自由になったは精一杯言葉で抵抗する。
叫びだすにまたがったまま飢えた獣のような目で見下ろすガイ。
恐怖を感じてが見上げると、ガイの目からはまた、涙が零れていた。

「!!」


急に抵抗する気力を失う


「先輩………お願い。…………優しくしてください。」


「…わかった。」










言ったとおり、ガイはとてもやさしくを抱いた。
眠れない夜を忘れるように夢中で一晩中。




翌朝になって、ガイはのとなりでぐっすりと眠っている。何日分もの睡眠を一度でとろうとしているように。

は体の痛みを感じならも散らかっていた自分の衣服を纏い、ガイの寝顔にホッとして家を出た
少し複雑な気持ちを抱えて。



(あれはガイ先輩を慰めただけなんだから…………なかったことにしよう。)


始めは無理やりだったけれど、優しくしてくれたガイ
あんな行為は望んでいたわけではなかったのに、驚くほど甘く安らかな気持ちになれたことに
は複雑な気持ちだった。

冷静になろうと努めていただったが自分の中にある母性が、激しく揺さぶられていた。





「忘れよう!!」


元来さっぱりとした性格だったなので、割り切れない感情に首を振って
こじれた変な関係になってしまうよりは、と
ガイとはこれまで通りに先輩、後輩として付き合っていくことを選ぶことにしたのだった。






2日後。
ガイはのおかげでぐっすりと眠ることができた。
まる2日眠り続け、空腹で目覚めたのだ。


「ふあぁ…………まったく良く寝た。」

愛弟子の手術に対する悪い想像ばかりが頭をよぎっていたガイだが、たっぷり睡眠をとることで
思考能力も、元に戻ったようだった。

が、それと同時に眠気と酔った勢いで自分がしでかした犯罪もリアルに思い出される。

「………………。」

「……………んぉあ――――――!!!!????俺は何てことをしでかしたんだ!!!!」


真っ青になって己を本気の拳で殴る。


ガツッ

「痛てぇ…………。こんなことで許されるわけはない…とにかく謝るんだ!!」


ガイはを探した。
街のどこかの取り巻きの中にきっといる。



街中を探し回り、演習場でみつけた。
珍しく取り巻きはいない。修行をしているようだ。


!!!」


ガイが駆け寄るとは振り返って笑顔を見せた。

「ガイ先輩!!どうしたんですか?」

「いや…あの、さっきようやく目が覚めた。それでこの間のことだが……俺はとんでもないことを…。」

「さっき?わぁ〜〜!!よく眠れたんですね!良かった!!」

「え?あぁ…だが…この間は本当に………。」


ガイは誠心誠意謝ろうと思っていた。
どんなに混乱していたとはいえ、酔っていたとはいえ
男として最低なことをしたと思っていたから。


ところがはガイの言葉を遮った。



「やめて。謝らないでください。………わたしはただ、ガイ先輩がなぐさめて欲しいって言うから
慰めただけですよ??それだけですよね?」

そう言ってニッコリと笑う。

「しかし!!!!」

「わたしが慰めたいと思ったから、そうしたんです。ガイ先輩はもう気にしないでくださいね。
ただ…………もうしないでくださいね!」

「も、もちろん!!!!お前…それで本当にいいのか?俺を殴ってもいいんだぞ?」


「そんな気があるならとっくにそうしてますよ!フフ…♪それじゃ、修行の途中なので!」


「あぁ。」


ガイは状況をすぐには飲み込めずにいたが、が許してくれたということと受け取ることにした。
絶好でもされるか、訴えられるかまで覚悟をしていただけに
変にガックリとなって去っていった。





ガイがきっと謝りに来るだろうことを予想していた
謝らせてあげなかったのはちょとした意地悪でもあった。
罪悪感は消えなくても謝ってすっきりしてしまえば、とのことを忘れてしまうと思ったから。




はあれ以来ガイを今までとは違う異性として感じるようになってしまい
あの出来事をガイにも忘れて欲しくなかったのだ。



そこへ同僚のイルカがやってきた。

「やぁ、!」

「こんにちは、イルカ。どうかしたの?さっきからチラチラ振り返って。」

イルカは来るなり不思議そうな顔でガイの去って行った方を見ながらやってきた。

「今ガイさんとすれ違ったんだけどな、なんか、様子が変だったなぁと思ってさ。ガイさん。」

「え?どんな風に?」

「う〜ん…うまくは言えないんだけど、困ったような赤い顔をしていて…おかしな歩き方で。」

「そ…そう。変ね…。」

(わたしはガイ先輩を困らせてしまってる……。)



はガイを困らせてしまったことを少し後悔した。
はじめは後輩として大事な先輩を元気付けたいと思っていただけだったのだから。





つづく