はいつのまにかガイを見つけると目で追うようになっていた。
取り巻きのなかで歩いていても、男たちの声は聞こえなかった。





部下たちと修行をする姿。

部下の病院に付き添う姿。

一心に修行に打ち込む姿。

胸を苦しくさせる想いに溜息が出た。



そんなに姿を追っていると、時々ガイと目が合いそうになり、恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。

目を逸らされたガイはいつも、困ったような寂しそうな顔をしていたことをは知らなかった。





それに、以前よりガイはに声を掛けるようになっていた。
任務後以外にも、映画や遊園地に行かないかと誘ってくるようになったのだ。


「先輩。ほんとにもう気にしなくていいですから。わたしに気を使って大切な修行の時間を無駄にしないでください!!」

はガイに無理をして欲しくなかった。
だからいつもその誘いには断っていた。




「無駄なんかでは…。」

その日もガイは断られた映画のチケットを握り締めて寂しげに歩いていた。



偶然アスマとすれ違う。


「よぉ!ガイ!!」

「ぉ、おお、アスマか。」

「随分しけたツラしてるじゃないか。お前らしくもない。」

「そうか?俺はいつも元気だぞ!!!」

空元気のガイにアスマは苦笑し、ガイの首根っこを掴んでちょっと来い、と連れて行ってしまった。










数日して、ガイの部下の手術が成功したという話をは聞いた。

これでガイの心配の種が無くなる、とも心からほっとしていた。


その日もガイがを誘いに来ていたので堪らず声をかけた。


「ガイ先輩!!手術成功おめでとうございます。…これで安心ですね!!」

「あぁ!リーが立派な忍になるのは俺の夢でもあるからな。本当に嬉しいぞ。」

「あんなに落ち込んだ先輩を見たの初めてだったんで、わたし本当に心配でした。
いつもは先輩に勇気付けられてばかりで、情けない後輩ですけど絶対に元気になって欲しかったから。」


その話を聞いてガイはありがとう、と何度も言って嬉し涙を流しながらを抱きしめた。
するとの気持ちの中でも何かがほどけた気がした。




「で、今日なんだが、短冊街に行かないか…」

「申し訳ありませんが…。」



は丁重にお断りをした。
ガイとデートなら行きたいのはやまやまだったが、変に気を使われるよりは今までの関係のままでいたかったのだ。


「そうか…………それじゃな。」



今日も寂しげな後姿で去っていく。


(ただの後輩に戻れるまでは。)


ガイの背中を見送りながらは心を鬼にするつもりだった。
ところが、その時のところへ突如アスマがやってきた。

「おい、。話がある、ちょっと来い。」

アスマは上忍であり、上司であったがあまり付き合いが無かったので何事かとは驚いた。

「は、はい。」



アスマは貯水塔の上へとを連れてきた。人気の無いところで眺めがいい場所を選んだのだ。

「何でしょう。」

「お前、………ガイと仲良かったよな。最近はなんだか全然じゃねぇか?」

「そんなことはありませんよ!わたしはガイ先輩を尊敬していますし!」

「そうじゃねぇ!お前ガイのこと好きなんじゃねぇのか?って事を聞きたいんだ、俺は。」

「………………………、いいえ。わたしはただの後輩です。」


唐突な質問には驚いた。わかる人にはわかってしまうのだろうか、そう思ってドキドキしていた。

「何だ、今の間は!!図星ならそう言え!!」

「どうしてアスマさんにそんなこと言わなくちゃならないんですか!」

「上司命令だ、言え!」

「そんな無茶苦茶な!!」

何を考えているのかわからないアスマに困ったは口を噤むことにした。

「ったく…………チッ!」

口を噤んで黙秘を決め込むに、アスマは舌打ちをした。

「まぁいいが、今ここからガイの奴が見えるだろう?」

返事を返さないままは言われるとおりに先ほど立ち去ったガイを見た。
演習場で部下の修行を見ているも、上の空で失敗して部下に叱られている。







「え?ガイ先輩……どうして。部下の手術は成功したのに。」

「アイツな………お前が好きなんだと。」

アスマの言葉を信じられずには首を振る。

「そんなわけありません!!先輩は……後輩や部下は絶対に好きになったりしないって
昔言ってましたから。」

「なにがあったかは、アイツも言わねぇが。アイツがそう言ってんだからそうなんだろうよ。
俺は聞いたんだからよ。様子がおかしいからどうしたんだって。」


「うそ…………。」

「なかなか、自分では言えねぇみたいだしな。ことごとくデートも拒否られてるらしいしな。
あんまりかわいそうで見てられなかったってとこだ。それじゃ、後はお前達次第だ。じゃぁな!!」


まだアスマの言っていることがすぐに信じられはしなかったがにとっては嬉しい話でしかなかった。

「あ、アスマさんありがとうございます!!」

「おぅ!」

アスマはヒラリと片手をあげると、瞬身の術でボフンと消えた。




「ガイ先輩が本当に…?それじゃわたしが片思いなんじゃなくて………。」



思えば、ガイの後輩として下忍時代に修行中だったときからはガイの姿に憧れていた。

ずっとずっと以前にガイが直属の後輩と部下を好きになったりはしない、本気の仕事ができなくなるからだ
そう言っていたのを聞いて、懸命にガイへの気持ちを諦めたのだ。


とにかく確かめずにはいられなかった。



修行をする部下の元でガイは溜息をついていた。
がその場に現れると驚いたようにを見ている。

「先輩…。お忙しいところをすみません。今すこしだけお話させてもらってもいいですか?」

の真剣な顔を見てガイも表情を強張らせる。

「あぁ、少しだけなら。」





二人は部下の少女を演習場に残し人気の無い慰霊碑までやってきた。

「さっき…アスマさんに聞いたんですが。」

「!!まさかアスマ!!」

ガイは途端に顔を赤くする。

「ガイ先輩、……………やっぱり直接聞きます。わたしのことをどう思っているんですか?」

ガイは困ったような顔で頭を掻きながらぼそぼそと言う。

「…好きだ。」

「は?聞こえませんけど。」

「す……す……す…………………。
…………お前こそどうなんだ?」

ガイはに話をすりかえようとした。
はガックリと肩を落としてキッパリと言う。

「わたしが先に言っていいんですか?」

「駄目だ!!」

ガイは額にびっしょり汗をかいている。
その姿を見てついは噴き出してしまった。

「もういいです。わたし帰ります。」

そう言って去ろうと背を向ける。


「!!ま、待て!!待ってくれ!!好きだ!!!!お前が好きなんだ!!」

帰るフリをして振り返ったは嬉しそうに微笑んでガイに飛びついた。
ガイもをしっかりと抱きしめる。とても愛おしそうに。



「お前にリーのことで助けてもらって俺はこの気持ちに気づいたんだ。
お前のことを考えただけで俺は………感情を抑えられなくなりそうなんだ。
お前が好きで、好きでたまらない…。
……もう一度…恋人として俺を助けてくれないか?」


「はい、いいですよ」



がそう言うとガイは笑ってに口付けをした。





終わり


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